※この記事では実際に鳥の皮を剥ぐ写真が表示されますので、苦手な方はご注意ください。
イベント会場などで「鳥の剥製ってどう作るの?」という質問をよくいただきます。
「ジャケットのように皮を脱がせて中身(骨、肉、内臓など)を取り出し、皮に防腐処理を施してから型に被せて整形します。」とはお答えするものの、「ジャケットのように・・・」、「中身を取り出す・・・」がどのようなことなのかは、なかなかイメージがつきにくいのではないでしょうか。
ということで、仮・本剥製を制作する工程の一部である剥皮を、実際に「アオゲラ」の作業写真を用いて紹介したいと思います。

このアオゲラは窓ガラスにぶつかって亡くなった個体でした。
STEP.1 毛抜けのチェック
剥製を作るにあたり、羽根が抜けてしまうようでは手の施しようがありません。一見綺麗な状態に見えても、実は傷んでいることは多々ありますので、作業前に必ずチェックします。
「ほねとはね」では下腹部と腰付近の羽根抜けを判断指標の1つとしており、解凍後に水に浸し、ビニール手袋をつけた指先で軽く撫でて大量に抜けるようなら不可、多少の抜けで落ち着くなら可?、抜けなければ良好としています。
STEP.2 腹部の切開
剥製制作では、最後に切開部分の皮の縫合処理を行いますが、どんなに綺麗に縫ったとしても少なからず歪みが生じます。そこで羽根の並びへの影響が最小するために、鳥の「無羽域」を切開して中身を取り出します。
「無羽域」は鳥の羽毛が生えていない部分のことで、ほとんどの鳥類は腹部の正中線沿いがこの「無羽域」1つになっています。
仰向けにして腹部の羽毛を掻き分け、喉元から竜骨突起に沿って総排泄口の手前までメスで皮を切ります。
※これより先、作業工程の写真が出てきます。

STEP.3 腹側部まで剥皮
切開した皮の端をピンセットで掴み、皮と肉の境目(白い薄膜)をメスで切り開きます。
剥皮する際は常に皮に少し引っ張ることで、境目を浮き上がらせます。テンションをかけていることにより、少し刃があたるだけで自然に剥がれやすくなり、無理に切って皮を傷つけるリスクを減らせます。

STEP.4 膝関節のカット
腹側部を剥いでいくと膝頭が出てくるので、膝裏にピンセットを潜らせてから膝関節をメスでカットします。
※ピンセットを通しておくことで、膝裏の皮を切ってしまうことを防ぎます。




STEP.5 総排泄口のカット
恥骨の外側を丁寧に剥皮し、皮を切らないためにやや内臓側で大腸をカットします。


STEP.6 尾椎のカット
総排泄口を切ると、やがて尾骨が出てくるので関節部分でカットします。
深く切り過ぎてしまうと背面の皮を切ってしまうため、細心の注意が必要です。
※尾羽を反り返らせることで関節がわかりやすくなり、切れ目が入った関節が外れようとする力が加わるため、メスでゴリゴリしなくても良くなるメリットがあります。

STEP.7 背面の剥皮
尾部から肩関節付近まで、背面の剥皮を進めます。

STEP.8 肩関節のカット
胸筋の上部まで剥皮が進んだら、皮を切らないように肩関節を切ります。
この際も膝関節と同様にピンセットを下に通してからカットします。


STEP.9 頸部の剥皮、胴体の分離
首は細く皮が薄いため、メスは使用せずに親指の爪を使って剥皮を行います。
頭骨まで達したら頭骨と頚骨の関節をメスで切り、胴体を分離します。


STEP.10 頸部の剥皮
比較的頭の大きな種(カモ目、ブッポウソウ目、キツツキ目など)は、首の皮の中を頭骨が通らないため、後頭部に切れ目を入れて、そこから頭骨部分の皮を進めます。
※頭の小さな種は切る必要はなし。

STEP.11 眼球の摘出
頭骨に沿って耳の根元を切り、そのまま目の半分程度まで剥皮し、ピンセットで眼球裏の視神経ごとすくい・摘み取ります。


STEP.12 脳の除去
脳は油分の塊のため、必ず綺麗に除去します。
この際、歯間ブラシやマスカラブラシなどが効率的に除去できて便利です。

STEP.13 上腕の徐肉
橈骨・尺骨まで剥皮して、徐肉をします。
なお、風切り羽根は尺骨(手羽先を食べた時につぶつぶの突起がある骨)にくっついているため、外さないでおくと最後の羽の整列が楽になります。


STEP.14 足の徐肉
踵まで剥皮を行い徐肉します。


STEP.15 腱の除去
指の中心部分にメスで小さく切れ目を入れ、くじりや千枚通しを使って腱を引っ掛けながら抜き取ります。

STEP.16 尾骨と油壺の除去
尾翼の上方根元にある油壺を取り除きます。
※写真赤枠内の左は未除去、右は除去済み。
油壺の重心に位置する尾椎も油をたくさん含んでいるので、尾翼の付け根を切らないように気をつけながら取り除きます。

STEP.17 皮下脂肪の除去
ピンセットなどを駆使して、皮全体に残った皮下脂肪や肉片を取り除けたら作業終了です。
水鳥や冬場の鳥は皮下脂肪が大量な場合が多く、STEP.17が一番大変だったり、そうでなかったり・・・
人によって詳細な手順は異なると思いますが、以上が大まかな剥皮の流れでした。「ほねとはね」ではSTEP.16までを2時間程度かけていますが、作業は早ければ早いだけいいと思います。時間が経過するほど鮮度は落ちて、仕上がりを左右してしますので、日々精進あるのみです・・・